スワロウテイル
新年が始まったばかりの1月初頭。
例年通り、霧里町は厚く高い雪の壁に覆われている。


「修~! 冬休みだからっていつまでも寝てないで、雪かき手伝いなさいな」

階段をリズミカルにのぼる足音とともに母親のお決まりの朝の挨拶が聞こえてきて、修はベッドからもそもそと起き上がった。

布団から這い出た身体は一瞬にして冷たくなる。 修はあわてて、椅子にかけてあったダウンジャケットを羽織った。

窓の外に目を向けると、木々や隣家の屋根に積もった真っ白な雪が陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
あまりの眩しさに修は思わず目を細める。



「あら、起きてたの。下に朝ごはん準備してあるからさっさと食べてちょうだい。あとはあんただけなんだから」

何の断りもなく扉が開き、頬にたっぷりと肉のついた丸顔の母親が顔を覗かせる。

「ノックくらいしてよ」

修は無駄と知りつつも抗議してみる。

「なにがノックよ。一人前ぶっちゃって。
そんなことよりね、昨日の吹雪で雪がすごいのよ。うちの周りは桃子と夏美にやらせるから、あんたはみちるちゃんち手伝ってあげてね」

仮にも教師なんだから、思春期の息子のプライバシーを多少は考慮してくれてもいいのではと修は思ったが口には出さない。

父親の書斎にしていた部屋を高校入学と同時に自分の一人部屋にしてもらったのだ。
中学生にもなって、8畳の洋室を二人でつかっている妹達に比べたらマシな方だ。

ノックが無いくらいは仕方ない。


どうせ雪かきだからまぁいいかと思い、パジャマ代わりにしているジャージを着替えもせずに下に降りた。

「おはよう、お兄ちゃん」
「外見た? 今日は重労働だよ」

中2と中1になる年子の妹達はもう朝ごはんを済ませたようで、コートを着込み外に出る準備をしていた。

似たような紺色のダッフルコートを着込んだ妹達は顔立ちも背格好もよく似ていて、まるで双子のようだ。

腰まで伸びた髪を耳の横で二つ結びにしているのが真ん中の桃子で、おかっぱ頭が一番下の夏美だ。

二人は昨日見たテレビドラマの話でキャーキャーと盛り上がっていた。

「おはよう、お父さん」

「おはよう、修。朝から手伝わせて悪いな」

修は掘りごたつに座りこむと、食後のコーヒーを飲んでいた父親に声をかけた。
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