スワロウテイル
父親がいないことでからかわれたりイジメられたりすることもあったけど、子供時代のみちるは友達が多い方だった。
寂しがりやで甘えん坊で、いつも誰かと一緒にいたがった。

変わったのは中学にあがったころだ。
今までみちるをイジメていた男の子達が急にみちるをチヤホヤするようになった。それに反比例して、女の子達はみちるから離れていった。
決定的だったのはあの出来事だ。
中学1年生の秋、女の子達に人気のあった先輩から告白された。特に話したこともない人だったから迷うことなくお断りした。にもかかわらず、翌日から仲のよかった友達が口を聞いてくれなくなった。


今にして思えば、それは女子にはありがちなトラブルで、みんな上手に乗り越えて大人になるのだ。
だけど、みちるは乗り越えられなかった。あれ以来、人間関係を構築するのが極端に苦手になってしまった。



夜の十時過ぎ。 あの男が家から出ていくのを確認してから、みちるは部屋を出てお風呂場へ向かう。 母親は今日も仕事で帰宅は明け方だろう。みちるは気兼ねなくゆっくりと1時間近く湯船につかった。ポカポカになった身体で部屋に戻ると、隣の相沢家にまだ煌々と明かりが点いているのが見えた。 みちるの部屋から見えるのは修の部屋だ。

「またつけっぱなしで寝てる‥‥。もったいないなぁ」

修がこんな時間まで起きているとは思えないから、電気をつけたまま漫画でも読んでいてそのまま寝ちゃったんだろう。
修の電気の消し忘れ癖は昔からずっとだ。みちるは苦笑しながら、自分の部屋の電気を消して布団に入る。



翌朝。
みちるがいつも通りの時間に家を出ると、同じタイミングで玄関から飛び出してきた修と目が合う。

「‥‥はよ」

修はぶっきらぼうな口調で言うと、目線を下に落とした。

「おはよ。 今日は朝練じゃないの?」

修に会うとは思わなかったので、みちるも少し驚いた。修は部活の朝練があるので、大抵みちるより早く家を出る。

「今日はバレー部が試合前だから、全面バレー部なんだ」

「そっか‥‥」

その後の会話がまったく続かない。
二人は無言のまま、すっかり雪が溶けて歩きやすくなった道を軽快なリズムで歩いていく。
四月のカレンダーもそろそろ破り捨てようかという頃になって、霧里町にようやく遅い春がやってきていた。


‥‥昔はあんなに夢中になって、何を話していたんだっけ。

ここ数年、修とはあまり会話がないのが普通になっていた。とはいえ、みちるにとっては他の人といるよりは何倍も何十倍も気が楽だった。 会話があろうとなかろうと、特に気詰まりに感じることはない。

だけど、子供の頃は毎日一緒にいても飽きることなくお喋りをしていたように思う。喋り疲れて二人揃って眠りこけてしまったこともあったっけ。

「ねぇ。 子供の頃ってどんな話をしてたんだっけ? 覚えてる?」

みちるの突拍子もない質問に修は少し驚いた顔を見せたけど、生真面目な修らしく一生懸命思い出そうとしてくれた。

「ん〜。みちるは、あれ!変身もののアニメにはまってて、ずっとその話してたよ。 桃子と夏美も好きで、俺はよく悪者役やらされてた」

「あぁ、ガーディアンズ! 懐かしい。よくおままごとしたなぁ。
修はサッカーの漫画が好きだったよね」

「うん。その漫画、今も部屋にあるよ」

「それで、小学校でサッカーチームに入ったのに漫画みたく上手にできないって泣いて辞めちゃったんだよね」

「‥‥嫌なこと思い出すなよ」

あははっと二人で声をたてて、笑った。 自分達は今だって、こうやって普通に楽しくお喋りをして笑い合うこともできる。

それなのに、どうして距離ができてしまったんだろう。
あんなに仲が良かったのに‥‥。

そんなものだよ。誰に聞いてもそう言われるのは、わかっている。
男女の幼馴染なんて成長とともに離れていくのが自然なことなんだろう。

だけど、自分と修は違う。みちるは根拠もないのに、そう信じていた。
< 56 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop