スワロウテイル
たった数年離れていただけなのに、久しぶりに訪れた学校は何もかもがとても小さく感じた。自分が大きくなった‥‥なんてことはないので、大学の校舎の大きさに目がすっかり慣れてしまったせいだろう。

「寺岡せんせー」

覗きこんだ職員室の一番端の席に見覚えのあるジャージ姿を発見して、修は思わず大きな声を上げる。
野球部員のようなスポーツ刈りの頭がゆっくりとこちらを振り返る。

「おーおぉ!相沢と長洲か〜。 久しぶりだな。 なにやってんだ⁉︎」

立ち上がった寺岡は老け込むどころか一段と迫力を増していた。寺岡の質問に長洲が笑って答える。

「もうすぐ成人式だから帰省中です。
久しぶりに寺岡先生に挨拶に来たんですよ」

「そっか、成人式かぁ‥‥ついこないだ新入部員として入ってきたと思ったら、早いもんだなぁ。 大学はどうだ?楽しいか?」

「東京ライフを満喫するつもりだったのに、看護科って意外と忙しくて‥‥選択ミスでした」

長洲は半分本気でそんなことを思っているようだった。

「がははっ。相沢はどうだ?元気でやってんのか?」

寺岡は言いながら、修の肩をバシバシと叩く。相変わらずの馬鹿力が何だか懐かしかった。

「楽しいですよ。サークルだけど、バスケも続けてます」

修は結局地元ではなく関西の大学に進学した。地元の私大には希望の学部がなかったからだ。
サークル活動は実は主軸にしているのは将棋サークルの方だったが、それは言わないでおくことにしよう。

「しかし‥‥なんでまた教育学部なんだ⁉︎ 就活で潰しがきかんぞ」

「潰しはきかなくていいんです。 教員採用試験一本に絞ってるんで。 俺、逃げ道あるとすぐ逃げちゃうし」

修はははっと笑って、けどきっぱりとした口調で言い切った。修の言葉に寺岡はきょとんとした顔をする。

「おまえ、教員目指すのか⁉︎」

「教員志望じゃなかったら、普通は教育学部にはいかないでしょ」

長洲の的確なつっこみに寺岡は「いや〜、そこしか受かんなかったのかと‥‥」という何とも失礼な発言をした。

寺岡はしばらく考えこんで、ポンと手をうった。

「あぁ、そういや相沢のご両親はどちらも教師だったよな。親の背中を見てってやつか」

勝手に納得したようで、うんうんと頷いている。
修はそれを笑って否定した。

「両親じゃなくて、どっちかというと寺岡せんせいの背中を見て‥‥です。
忘れてるかも知れないけど‥‥昔、俺が部活でスランプだった時にせんせいは俺のこと褒めてくれたんです。
あそこで怒られるだけだったら、俺バスケ部辞めてたかも知れない。

寺岡せんせいみたく、誰かに良い影響を与えてあげられる人になりたいって思って」
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