さよならはまたあとで

「私、反応遅くって…いつもアイス奢ってた。「優恵は弱いなぁ」っていつも笑われてさ」


「優恵…」


「ん?」


隣で律太がそう呟いた。


「優恵って呼ばれてたんだ」


「そうだよ」


「俺も、優恵ってよんでもいいかな」


律太と目が合う。
なんだか熱い。


「いいよ」


私はそう言ってアイスが並べてある冷凍庫に視線を移した。
中を覗くと顔に冷気が染み込んできた。


「優恵…も、律太って呼んでいいよ。あ、これ美味しそう」


律太は話を無かったことにしようとするのが得意だ。

それとも癖なのだろうか。

反応を見るのが怖い時、律太は必ず最後に話題を変えてしまうようなことを言う。


「いいよ。律太」


私はそのさり気なさを見過ごさない。

どんなに見つけにくくても必ず拾ってやる。

だってそうすると、律太は嬉しそうな顔をするから。

なんでか分からないけど、そんな律太を見ると嬉しくなるから。


言い出したのは律太の方なのに、彼は照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。

それからしばらくして「優恵」と、私の名前を呼んだ。

律太がそっぽを向いてしまった理由が分かった気がした。

アイスのお金は、全て律太が出してくれた。
自分の分は自分で払うって言ったのに、「葛城兄弟には奢るのに優恵にだけ奢らないのはおかしい」と言っては、お金を受け取ってくれなかった。


店員さんはどこか微笑ましそうにこちらの様子を伺っていた。

あとで知ったことだけれど、この時、私たち二人はカップルに間違えられていたらしい。

この話を聞いた時は、恥ずかしくて顔が真っ赤になってしまった。
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