不時着
不時着



自分の人生が上手くいかないのは全てこの世界のせいだと彼は言う。パチンコで負けた憂さ晴らしにと私を飲みに誘った彼は、ごく当たり前のように私のお金でお酒を飲み、私のお金でお気に入りの焼き鳥屋へハシゴして、何杯目かもわからないビールを一口飲んだあとで、ふっと呟くように「くそみてぇだな」と吐き捨てた。


「ほんとくそみてぇだな、世の中って」


自分の人生が上手く行かないのは、全てこの世界のせいだと彼は言う。彼はごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の学生時代を過ごし、ごく普通の人生を歩むことを、いつも遠い世界のおとぎ話のように語っている。

大学時代、同じサークルに所属していた子に、人数が足りないからお願いと頼まれて仕方なく参加した飲み会で、私は彼と出会った。ブランド物のスーツに身を包み、いかにも高そうな腕時計を自慢げに掲げた男性たちの真ん中に、彼はいた。

色の褪せたジーンズに白いパーカー、履き潰されたスニーカー。彼はどうみたって周りから浮いていて、如何にも"引立て役"として呼ばれたのだろうということは私にもわかった。

かく言う私もきっと、その類の理由であの場所に呼ばれていたのだろう。私以外の女の子たちはみんなキラキラと着飾った派手な子ばかりだった。特別美人でもない、お洒落やメイクに詳しいわけでもない、どちらかというと地味で暗かった私も、浮いた存在だったように思う。

お酒も進み、周りがどんどん盛り上がる中で、私と彼は完全に置いてきぼりにされていた。そろそろお開き、というところで、「笠原さんは二次会どうする?」と声をかけられ、つい「明日は朝が早いから」と嘘をついてしまった。本当は講義もバイトも休み、明日の予定なんて何もなかったのに。

それじゃあまた、と軽く手を振って駅へ向かう瞬間も、私を誘ったあの子はこちらを見もしなかった。元々仲が良かったわけでもない、たまたま暇そうにしていたのが私だったから、仕方なく声をかけてくれただけ。そんなことはわかっているのに、なんだかどうしようもなく虚しくなって、大きなため息と一緒に、涙が出そうになった。

そういえば昔から、私には親友と呼べるような友達はいなかった。なんとなく話をして、一緒にお弁当を食べたり、移動教室の時に声をかけてくれる子はいたけれど、休みの日に遊びに誘ってくれるような子は一人もいなかった。

嫌われているわけではないけれど、別段好かれているわけでもない。はしゃぎあってカラオケ店へと消えていったあの子たちのように、他人と上手く距離を縮めることができない。私って、昔からそうだな。

そんなことを考えたら、余計に涙が出そうになった。誰が悪いわけでもないのに、私が悪いわけでもないのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。

どうしてこんなに、惨めなんだろう。
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