確かに恋だった。
私が彼に出会ったのは、ある雪の降る身を切り裂くように寒い冬の日だった。
人通りのない路地。
私は体を震わせながら、必死に命を繋いでいた。
指先は寒さで感覚を失い、まるで自分の体ではないようだった。
私は幼い頃に捨てられた。
私が愛したあの人にとって私は使い捨ての玩具でしかなかったのだ。
私は孤独だった。



私は誰にも必要とされていないのだ。
私は人間を信じることが出来なくなっていた。
誰も私に気付かない。
薄汚れた私など視界に入れることすら汚らわしいのだろう。
分かってる。
そんなの分かっている。
だから、私は人間が嫌いだ。
大嫌いだ。
誰も信じられない。



信じなければ、いいのだ。
もうあんな業火に焼かれるような苦しみなど味わいたくないのだ。
私はそうして孤独に死んでいくのだ。
それでいいと思っていた。
それが正しいと信じていた。
自分を偽らなくては私は生きられないのだ。
彼に出会ったのはそんな時だった。



彼は私を愛してくれた。
彼は私に多くを与えてくれた。
優しい優しい声で彼は私を愛してくれた。
名前をくれた。
居場所をくれた。
生きる意味をくれた。
彼は私の全てだった。



優しい優しい声で彼は私を呼んでくれる。
手触りの良い毛布で私を包み、私の頭を優しく慈しむように撫でてくれた。
彼は私を愛してくれた。
私も彼を愛していた。
彼は私の一番だった。
私の世界だった。
けれど、彼の一番は私じゃなかった。











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