笑って。僕の大好きなひと。

「うん。平気。ありがとう」


翼の気遣いに、胸がズキッと痛んだ。罪悪感、そしてわずかな安堵感が混ざって渦を巻き、今にも呼吸が止まりそうだ。

バスが到着し、扉が開いた。

気にせず行って。と目で促すわたしに、翼たちは「気を付けてな」と言い残し、心配そうに乗りこんでいく。

そうして三人を乗せたバスは、嘘つきのわたしを残して去っていった。


  ***


――帰りの新幹線のチケット、買わなくちゃ。

そう思うのに、わたしの足はその場から動けずにいた。バス停のベンチに腰をかけ、じっと地面を見つめたまま。

どうしよう、わたし。嘘をついてしまった。

自分でもバカなことをしたと思う。でも、どうしても我慢できなかったから……。


排気ガスの混じった冷たい空気が目にしみる。無関心な雑踏が、わたしをますます独りにさせていく。

そっとスマホの電源を入れて、自宅の番号を表示した。急に帰ると伝えたら、お母さんはなんて言うだろう。


“何バカなことしてんの”

“絶対行くって自分で言い張ったくせに”

“みんなに迷惑をかけるなんて無責任”

“あんたみたいなワガママ、社会に出たら通用しないのよ”


お母さんが言いそうな正論はたくさん思いつく。けれど、わたしに味方してくれる言葉は、ひとつも思い浮かばなかった。

ぽっかりと空いた七日間の空白に、わたしはひとりぼっちで途方に暮れた。
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