笑って。僕の大好きなひと。

「昨夜から様子が変だと思っていたら、朝になってこんなに腫れてきて……! サトシに問い詰めたら、お宅のトモくんに突き飛ばされたって言うじゃないの!」


なんだろう、ただ事じゃない様子だ。わたしは柱に隠れ、そろりと玄関を窺った。

実里さんの背中ごしに、女性が鬼の剣幕でまくしたてているのが見える。

その隣では、左手に包帯を巻いた男の子がうつむき加減で佇んでいた。


「いくら子ども同士のケンカとは言え、突き飛ばすなんてどうかしてるわ!」

「本当に、その通りです……申し訳ありません」

「謝って終わりの問題じゃないでしょう!? これだから若い親はダメなのよ! お宅、どういう教育されてるの!? 肝心の息子さんを早く連れて来なさいよ! わたしがルールを教えてあげるから!」


何なんだ、あのオバサン。詳しい事情はわからないけど、横暴すぎる口ぶりにムカムカしてくる。

部外者のわたしでもこうなのだから、きっと実里さんの心中は吹き荒んでいるだろう。

けれど、実里さん本人は至って冷静に頭を下げると、静かな口調で返した。
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