さよなら、もう一人のわたし
 人生は一つじゃない。その人の数だけ、未来がある。
 千春の選んだ未来はわたしとは全く違うということだけなのだ。

「その夢、叶うといいね」

 千春は顔を染めて微笑む。

「わたしの話はいいのよ。でも、わたしの伯父がしつこいの。死ぬまでにもう一度あの映画を撮りたいと言い出してさ」

 彼女は咳払いをすると、まくしたてるように早口でそう言った。

「死ぬまでにって病気とか?」
「そういうわけじゃないけど、言葉のあやみたいなやつだと思うよ。歳も歳だからね。わたしに才能があるからって。わたしを逃したら他の人が見つかるか分からないってさ」

「才能か」

 確かに彼女は上手だった。いや、そんな言葉で表現しつくせない。彼女が動き、何かを言うだけで彼女の世界に引き込まれる。引き込まれるというよりは引きずり込んでいく。
 それが彼女の伯父の言う「才能」なのかもしれない。

「別に興味がないことに才能があると言われても困るのよ」
「確かにそうかもしれないね」

 わたしからするともったいなくて羨ましいものだった。しかし、千春にとってはそうではないのだろう。

「でね、伯父が誰か適役がいたらわたしがでなくてもかまわないって言うのよ」
「適役ね。心当たりはあるの?」

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