ラブ パラドックス
Chap.08 意志
「葉月さんちょっといい?」

「はい」


終業時間ちょうどに、前田先生に手招きで応接間に呼ばれた。どうしたんだろう。

今日が仕事納めだから、一言挨拶をされるのかな。


シャットダウン中のノートパソコンを放置して応接間に行くと、夏目くんがいた。


お互い”あれ?”と小さく驚き、ひとまず夏目くんの隣に座る。


向かいに座った前田先生が「実は」と早速話を切り出した。



「わたしの古くからの友人が、病気を患ってずっと入院中でね。あまりよくないらしいんだ。彼から今電話があって、遺言を作りたいと言われてね」

「「はい」」」

「恐らく自筆は困難で、死亡危急時遺言になりそうなんだ。夏目くんはもちろん、葉月さんも経験ないよね」


私たちは大きく頷いた。


特別方式の遺言である、死亡危急時遺言。


疾病などの事由で、死期が迫り署名押印できない人のための遺言であり、証人3名以上の立ち合いだ必要だ。

口頭で遺言でき、証人が、遺言者の残した遺言を書面化する方式により、作成する遺言のことだ。


ここでいう証人は、わたしたち司法書士であることが一般的だ。
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