僕の星
「嘘やごまかしは嫌いですから、はっきり言います。僕は里奈さんと付き合うことと、森村さんの工場を継ぐ継がないという問題を一緒にするつもりはありません」
「……」
「森村さんの後を継ぎたい。そういった強い気持ちがなければ、一人前の仕事はできないでしょう。ですから、後を継ぐとは言いきれない。それが、今の僕の返事です」
「なるほど、よく分かった」

 父は手にしていたコーヒーカップを置き、ふーっと息を吐いた。
 
「条件から何から、全部揃った奴なんていやしねえ。分かってるよ、俺だって」

 里奈は母とともに、黙ったまま二人を見守る。彼らは男同士の話をしていた。

「すみません。生意気なことを言いました」

 春彦は急に控え目な口調になり、ぺこりと頭を下げた。少し頬が赤らんでいる。
 父は腕組みをしてしばらく考えていたが、やがて笑みを浮かべた。
 春彦のことを、嬉しそうに見ている。 

「里奈を泣かせたら、生きて千葉に帰れると思うなよ」
「森村さん……」

 春彦がほっと息をつくのが分かった。
 彼は気難しく頑固な父親に対し、しっかりと自分の意思を伝えた。そして里奈との付き合いも続けると宣言した。

 私のために頑張ってくれたのだ――

(ありがとう、春彦)

 恋人と家族の対面は、最高の形で終えることができた。

 ただひとつ、彼が大学卒業後千葉に帰るのか、名古屋に留まるのか。それだけは気になったけれど、とりあえず今は今の幸せを噛みしめる里奈だった。




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