僕の星

星の巡り合わせ

 10分ほどロビーの椅子に腰かけていると、背の高いスーツ姿の男性が一人、正面玄関から入ってきた。
 彼は里奈に目を留めて、勢いよく近付いてくる。

「あれ、春彦?」

 スーツを着たその男性は、春彦だった。

「なんだ、1週間ばかり会わなかっただけで、もう忘れたのか」

 里奈は春彦の姿に目を見張る。いつもよりずっと大人びているので、分からなかった。普段着の彼とは別人のようだ。

「ごめんなさい。だって……あまりにも素敵だったから」

 里奈の言いように、春彦は目を瞬かせた。

「たわけ」

 ふざけて肩を押してくる。素敵という表現に、さすがに照れたのかもしれない。

「えっと……ところで進太君は?」
「外で待ってるよ。目立つと面倒だからって」
「あっ、そうか」

 佐久間進太は、いまや名の売れたモデルである。
 明るい場所に立ち、注目されるのは困るのだ。ましてやここは地元であり、彼は有名人だ。

「それに、あまり時間がないらしい。明日から海外で撮影らしくて、これから空港近くのホテルまで戻るんだと。今日は事務所に無理言って出してもらったらしいよ」
「そっか……忙しいんだね。じゃあ、どうしよう」
「とにかく表に出よう。コート着ろよ、寒いぞ」

 春彦は里奈の横に並んで歩いた。
 この頃は、先に立って歩くことはない。いつ頃からか、里奈のことを待つようになった。

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