僕の星

春彦の限界

 進太が乗ったタクシーを見送ると、里奈と春彦は二人きりになった。

「ふうっ……それじゃあ俺も帰るか」

 あっさりと言う彼に、里奈は軽く落胆する。せっかく会えたのに、用事が済んだみたいな言い方は、少し冷たいと思った。

「今夜はゆっくり休んで、明日しっかりデートしようぜ」
「あ……」

 冷たいのではなく、里奈のこと思いやってくれるのだ。だけど女の気持ちは複雑で、その気遣いが寂しいと感じたりする。

 里奈が黙っていると、春彦は少し考える風にしてから、

「では、まあちょっとだけ……」

 里奈の冷たくなった手を掴んで、今来た道を戻り始めた。

「寒いけど、いいか?」

 二人きりの時にだけ聞かせてくれる、春彦の優しい声。
 里奈は頷くと、ようやく笑顔になった。


 冬の海はざわめいている。
 月明かりのもと、里奈は春彦にもたれるようにして歩いた。

 海岸通りは車も少なく、人影も無い。ホテルの建物から離れると、そこには海のざわめきと、青い闇があるのみだった。
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