僕の星

滝口家

 翌朝10時ちょうどに、春彦がホテルまで迎えに来た。

 彼は昨夜のスーツ姿から一転、セーターとデニムというラフな格好だった。一方、里奈もコートを脱ぐと普段着である。春彦は昨夜のワンピースを気に入っていたらしく、少し残念そうに言った。

「昨夜の服と違うな」
「うん。着替えたけど?」
「あの服、良かったな。似合ってたよ」
「そ、そうかな」
「うん。ああいうのもいい」

 里奈の服についてコメントなどしたことがないのに、珍しい発言だった。
 実は、あのワンピースはイタリアブランドの店で少し無理をして買った。里奈は投資した甲斐があったかなと、心中で満足する。

 春彦は兄に借りたというシルバーのステーションワゴンの助手席に里奈を座らせた。
 エンジンをかけると、ホテルの駐車場をゆっくり発進する。運転するのは久しぶりのためか、かなり慎重になっているようだ。

 車は海岸通りを自然のカーブに任せて気持ちよく走っていく。
 青く晴れ渡った空と、太陽を反射してキラキラと光る海がとても眩しい。

(本当に、きれいなところだなあ)

 里奈は車窓に張り付き、飽きることなく景色を眺めていた。
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