僕の星

左手の薬指

 滝口家は海を望む小高い丘の上にあった。
 広い敷地内に住居と庭があり、花壇がきれいに手入れされていた。

 里奈は縁側の窓から景色を眺めつつ、ここが春彦が生まれ育った家なのだと感激している。

「海と反対方向に行くと小さな山があるんだ。ほら、あっちに見えるだろ。虫捕りとか木登りとか、春彦が朝から晩まで駆けずり回ってた山だよ」

 慧一がいつの間にか里奈の後ろに立ち、枯木が寒そうな小山を指差した。

「駆けずり回るはないだろ」

 春彦が居間のソファに腰掛け、不満げに口を出す。父親が笑って、

「そうか、わかったぞ。春彦は里奈さんに昔の話をされたくないんだな。だから家に連れて来るのを渋ったのか」
「そんなんじゃないよ」

 春彦はムキになるが、ムキになった分、図星だと露呈してしまった。

「へえ、そうなのか。じゃあ、里奈ちゃんにはぜひ聞いてもらわないとね。春彦がはなたれ坊主だった頃のアレコレを」
「やめなさいよ。あんただって似たようなものでしょうが」

 愉快そうに言う慧一を、コーヒーを運んできた母親がたしなめる。
 里奈はそのやり取りを楽しそうに見ていた。
< 132 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop