僕の星

涙の理由

 夕方になると急に冷え込んできた。
 混み合う東京駅のホームで、里奈は足踏みしながら自分が乗るのぞみ号を待っている。

 ビルの灯りを眺めていると、スマートフォンが鳴動した。千葉の駅で別れたばかりの春彦からだ。

『里奈、まだ東京駅?』

 応答すると、前置き無しで話し始めた。急いでいるのか、ずいぶん早口である。

「うん。発車まであと15分くらいだけど……どうかしたの?」
『いや、お袋が里奈の実家に土産を用意したのを、忘れてたんだ。今、そっちに運んでるところ』
「えっ……ここに?」
『そうそう。おっ、いたいた!』

 唐突に通話が切れた。
 慌ててかけ直していると後ろから肩を叩かれ、小さな悲鳴を上げる。

 振り向くと、スマートフォンを手にした春彦が、嬉しそうに笑っていた。

「春彦!?」
「はい、これ」

 お土産が入った紙袋を差し出され、里奈はドキドキしながら受け取る。

「びっくりした……」
「はは、悪い悪い。でも良かったよ、間に合って」

 里奈は紙袋を見下ろし、自分を歓迎してくれた春彦の家族を思い浮かべる。 

「ありがとう。でも、気を遣わせてしまってごめんなさい」
「ま、何にせよ俺にはラッキーだな。お土産のおかげで、こうして里奈を見送ることが出来た」
「春彦……」

 照れ笑いする彼に、里奈は感動する。心から嬉しいと思った。
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