僕の星

幸せの星空

 結婚式の2日後。
 里奈と春彦はスイス――グリンデルワルト村の小さなホテルにいる。
 ベランダから眺める星空が、たとえようもなく美しい。

「明日はジュネーブからTGVでパリに向かう。その前に、レマン湖の古城を観に行こう」

 里奈の肩にカーディガンを羽織らせながら春彦が言う。

「西洋のお城かあ。どんな建物なのかな」

 カーディガンと春彦の温もりに包まれ、里奈はほっとする。3月のスイスはまだ冬のように寒く、吐く息も白い。

「それにしても、ヨーロッパの山はダイナミックだよ。町から見えるアイガーなんて、まるで巨大な岩がドンとある感じだ。でも、岩肌の雪がまぶしくて、きれいで……豪快なのに、芸術的な美しさっていうのか……」
「うん、分かる。私も思わず見惚れちゃった」
「世界は広い。初めて感じることばかりだ」

 二人はとりとめもなく、旅行の感想を語り合った。

 フランスのあとはイギリスに移動し、その翌日、夕方の便で日本へと戻る予定だ。
 イギリスでは観光とは別に、建築関係の職人に話を聞くという日程が組まれている。春彦の大学時代の教授のつてで、とある工房を見学できることになった。
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