僕の星

包帯の理由

 バスは岐阜駅に着いた。
 春彦はロッカーに預けてある荷物を取りに行くからと、里奈を改札の所に待たせた。スポーツバッグを肩に戻って来ると、腕時計を確かめる。

「ねえ、腹が減らない? もし時間があるなら、そこで何か食べて行こうか」

 彼が指さすほうを見ると、駅構内にファーストフードの店があった。

「う……ん」

 もちろん付き合いたいのだが、里奈の財布には帰りの電車賃しか入っていない。

「急いでるの?」

 いい返事が来ると思っていたのか、春彦の顔が不安げに曇る。

「ううん、そうじゃなくて……金欠で……」

 里奈は蚊の鳴くような声で、理由を口にした。

「えっ、何だって?」

 春彦が顔を覗き込むので、里奈はますます赤面する。

「私、電車賃しか持ってないの。ゴメン」

 せっかく誘ってくれたのに申し訳ないと頭を下げた。春彦は納得すると、明るく笑った。

「なんだ、それなら貸しにしといてやるよ。行こうぜ」

 先に立って歩き出す彼のあとを、里奈は慌てて追いかけた。
 女の子同士の付き合いと違い、何だかあとを付いて行くばっかりなので調子が狂う。だけど、ちょっと新鮮な気もする。

(もしかして、春彦君がリードするタイプなのかな)

 いろいろ考えるけれど、とにかくそれは初めての感覚。
 ときめきをともなう『付き合い』だった。
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