僕の星

春彦の焦り

 里奈が席に戻ると、皆一斉に注目した。

「今の人、誰?」

 中西が興味津々の顔で質問する。彼はドリンクバーが一番よく見える位置に座っていた。

「会社の、同じ課の人です。仕事で来てたみたいで……」
「ああ、会社の知り合いね。なるほど」

 うんうんと納得するが、ちょっと首をひねる。

「でもさ、あの人誰かに似てなかった?」
「そうそう、俺もそう思った」

 山本も興奮気味に同意した。

(似てる……?)

 里奈はハッとして春彦を見るが、彼は窓の外に目をやっている。
 どうしよう――
 海老沢の話をした時、春彦は面白くなさそうだった。その理由に、ようやく思い至ったのだ。

 だけど、もうどうしようもない。
 山本がパチンと手を打ち、はしゃいだ声を上げた。

「そうだ、春彦に似てるんだ。なあ、吉田も見たろ?」
「見た見た! 驚いちゃった。今思い出すと、兄弟みたいに似てたよね」

 吉田が大きな目をさらに見開く。なぜか、ずいぶん嬉しそうな表情をしている。
 盛り上がる仲間達を、里奈は少し大げさだと感じた。

 ぎこちなくカップを取り上げると、コーヒーを口に含む。春彦は窓の外を向いたままだ。



< 93 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop