こんな私が、恋したみたいです。
「誰、」




わからない。知らない。




でも、誰でもいいとは思わない。




だって、もうすぐ戻る場所にいる人だから。





「…朝」





そう、今は朝。いつの間にやらすっかり寝ていたらしい。





橋森くんは?帰っちゃった?





「来てくれたり、」




しちゃわないかな?でも、明日も明後日も来るって言ってくれた。





携帯が、ブン、と音を立てる。




誰かから連絡が来たみたいだ。




『元気?』




それは、1ヶ月顔も見せない母親。





『うん』




元気だったら、こんなところにいないと思うけど。




『そう』




毎日毎日、これだけの連絡を取り合っている。




たった、それだけ。




私に誰も近づけたくないのか、面会拒否を勝手にしていたことには驚いた。




外の世界と、隔離されていた。




橋森くんは毎日ノートをちぎって手紙をくれた。





何で来てくれないんだろうって、思ってたんだ。




きっと、部活が終わるのが遅いのかもしれない。面会時間を過ぎちゃうのかもしれない。





そう思って納得していても、日曜日が来るたびに、今日は休みだからってちょっと期待して、ちょっと裏切られて。




昼間に手紙が届くのに、本人は来てくれないんだって、すぐ下にいるはずなのに、何で上がって来てくれないんだって思ってた。突き放したのは私なのに。






担当看護師の川田さんが教えてくれた。




知らないの?って。りっちゃん、面会拒否なんだよ、って。





すぐに、解除をお願いした。その勢いで、橋森くんに来て欲しいって言ってみた。






来ないことはわかっていた。だって、バリバリ学校中だから。



休み時間になったら返信ぐらいくれるかなって、既読がつくのをずっと待っていた。既読がついたらすぐにトークを閉じて、あたかも今気づきましたかのように2、3分後に返そうって。





だけど、1時間以上経ったのにいくら待っても既読は付かなくて、遅いなって、ブロックされてるのかもしれないって思いながら携帯とにらめっこしていた。




そのうちに、眠たくなっちゃったんだ。気づいたら、寝ていた。





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