結婚の約束をしよう
「お母さんちょっと出てくるわ。」

そう言うと、1つに束ねたパーマヘアを揺らしながら、お母さんはリビングを出て行った。

「誰だろうね、こんな時間に。」

「ね。」

私の問いかけに一文字で答えた智沙ーーーその口調からも、よっぽど興味がないことが伝わってくる。

そんな事を思いながら晩ごはんの続きを口に運んでいると、何やら楽しげなお母さんの声が聞こえてきた。

寒いんだから早く戻ってこればいいのに、会話が弾んでいるみたい。

「おかわりおかわり♪」

気付けば智沙は、シチューのおかわりをしていた。

それから少しして、スリッパをパタパタさせながらお母さんが戻ってきた。

急ぐスリッパの音が、外の寒さを物語る。

「ねぇあんた達!笹野さん覚えてる?3軒隣のお宅。確か結愛と同い年の子がいたわよねぇ。」

「うん。陵のことでしょ。」

そう、3軒隣の家には、笹野陵(ささのりょう)という幼なじみが住んでいたんだ。

「あたし全然覚えてないよ、いつの話?」

智沙の記憶にないのも、無理もない。


< 2 / 182 >

この作品をシェア

pagetop