火恋 ~ひれん~
 アパートまで送ってもらう車の中で、峰さんから返されたものを渉さんに見せた。
 小さく包めてあった若草色のタオルハンカチ。掌の上に広げ、そこに在るのが吸殻だと知って彼は僅かに目を見張った。・・・あまり感情を表に出さないひとだけれど、困ったような、ばつが悪そうな雰囲気は判りやすく感じ取れてしまう。
 わたしは曖昧に微笑んだ。

「・・・渉さんが残していった事はすぐ分かったので。どういうつもりだったのかって一晩眠れませんでした」

 返事の代わりか、ややあって頭を軽く撫でられる。

「捨てるに捨てられないし、でも忘れるしかないと思ったので・・・・・・。次の日に一人で来て屋台が停まっていた辺りに置いて帰ったんです。・・・たぶん半分は、峰さんが見つけてくれたらって思ってました。それで繋がる運命なのか・・・試したかったのかも知れないですね・・・」

 偶然でも奇跡でも。こうして繋がった。廻り廻って辿り着いた結果。のようなものだと思う。だからこの吸殻に特別な意味は無いのだけれど。

「御守り代わりに・・・持っていたいんですけど、・・・駄目ですか?」

「別に構わんが・・・」

 溜め息雑じりで返る。
 
 わたしは。わたしには家族は居ない。わたしに何かあっても、わたしはわたししか頼るものが無い。死ぬまで一人。
 それは、渉さんがいてもいなくても変わらない事実。想いが通じ合う存在があるのだとしても。安寧には浸れない。・・・呼び起こす為の自戒。

 心が折れそうになったらこの吸殻を手に取って。
 自分は最初から、たった独りきりなんだと思い知らせれば。・・・いい。


「お前はどうも調子が狂うな・・・・・・」

 苦そうに口の端で笑むと渉さんはそんな風に言った。
 わたしは答えずに、彼の肩にそっと寄り添っただけだった。 
 
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