あなたとホワイトウェディングを夢みて

「いや、私でなければ無理だから」

 郁未にそう言われれば返す言葉は一つだけ。『行ってらっしゃいませ』と、秘書は笑顔でお辞儀をする。

(普通なら俺の言葉に女達は従う。なのに留美だけだ、俺に逐一逆らうのは……)

 エレベーターへ向かう郁未は、社員食堂での留美のあからさまな反抗的な態度を思い出していた。
 自社で働く社員らの様子を窺い知ろうと郁未は定期的に社員食堂を利用する。しかし、社長子息であり専務でもある郁未は常に女性社員らの標的になる。その為、平穏無事に食堂で過ごせる策として、あの時は特別にランチメニューに数品追加させた。女性社員の気を逸らすのが目的だったが、結果として留美の怒りを買った。

(今思えば確かに男性社員を差別してしまった。留美が怒るのも当然だな)

 エレベーターホールへやって来た郁がボタンを押して扉が開くのを待つと、秘書が追い掛けて来た。昼前に営業部長との会議が入っていたと伝えに来たのだ。

「会議は明日一番に時間を変更しておいてくれ。それと、今日の予定は全てキャンセルだ」

 ついでに今週末の予定も全てキャンセルすると秘書に指示を出すと、丁度そこへエレベーターの扉が開く。郁未は飛び乗るとボタンを押して扉を閉じた。
 慌てた郁未の様子に秘書は何事かと目を丸くしていた。
 そして、エレベーターから下りた郁未は地下駐車場へ急ぎ、駐車していた自分の車に乗り込むと自宅マンションへと向かって車を走らせる。
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