あなたとホワイトウェディングを夢みて
第八章 嘘がバレた
 郁未にプロポーズされた留美の左手薬指には、可愛いハート型のリングに虹色に輝く大粒のダイヤが嵌め込まれ、周囲には愛らしいピンクのルビーがあしらわれた婚約指輪が華やかに飾られている。
 何度見てもうっとりする豪華な指輪。自分にご褒美で買いたくても買える代物ではない。セレブ御用達の宝石店とはよく言ったもので、あの日、郁未と訪れた宝石店で二人の前に指輪ケースを並べられた時、その指輪にはどれも値札などはなかった。
 郁未に好きな指輪を選べと言われたものの、参考となる値段が分からないのでは選べない。通常は給料の三倍と噂には聞くが、そもそも郁未の給料は知らないし、三倍という相場も妥当なのか。いろいろ考えると指輪を選ぶ手に迷いが出る。
 それに、並ぶ指輪はどれもこれも大きな粒のダイヤばかり。豪華過ぎて目が眩みそうだ。ダイヤ一粒で高級車が買えるのではなかろうかと、つい頭の中で札束を数えてしまっていた。
 悩んだ末に留美が決めたのは、郁未の婚約者として相応しいもので、大粒ダイヤの回りにルビーがあしらわれた如何にも高そうな指輪。キラキラ煌めく宝石はまるで郁未の煌びやかさを思わせる美しさだ。
 窓から入る太陽の光に手をかざし、改めて宝石の輝く美しさとリングの可愛いデザインにほろ酔い気分を味わう。うっとりしていつまでも眺めていたいと留美の顔は恍惚となる。

「佐伯さん?」

 指輪に見とれる留美は横から名前を呼ばれていることに気づいていない。たとえ指輪に気を取られていても、留美が居るここは職場。いつもの情報処理課だ。本来ならばパソコンと向かい合ってプログラムを組んでいるところだ。
 しかし、何度声かけしても無反応な留美を見て、先輩社員の田中も鈴木課長も肩をすくめる。

「佐伯さんってばここ数日あんな調子ですよ。課長、例のプログラムどうします?」

 困り果てた田中が両手を挙げお手上げのポーズを取る。そして、自分のデスクに肘をついて留美の惚ける顔を眺めては大きな溜め息を吐く。
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