あなたとホワイトウェディングを夢みて

 動作の異常を伝えても、留美から一向に謝罪の言葉はない。
 呆れ返った郁未は、これ以上話すことはないと留美に言い放つ。

「明日の午前中まで時間をやる。午後一番にその新品のCDにデータを複製し提出するんだ」
「まだ私は内容を確認していません。なのに期限を持ちだされても困ります」

 正常に動作しない箇所が不明なだけに、留美は安易に約束など出来ない。
 なのに、郁未は留美を無能扱いしようとする。

「別に無理する必要はない。たとえ簡単なプログラムであっても完成出来ない場合は、他の社員と交代するまでだ」

 これは完全な嫌がらせだと、留美には判っている。
 社員食堂で、専務の好意を受け取らなかった唯一の社員として報いを受けているのだ。郁未の報復を受けて立つと、留美は深く会釈をして専務室から出て行った。
 全く物怖じしない留美の態度が気に入らない郁未は、留美が出て行った後もブツブツと呟いている。

「可愛げのない女だ。いや、あれは絶対に女の仮面を被った妖怪だ」

 大人げない郁未は椅子を回転させ、背後にある大きな窓から外の景色を眺めた。
 留美の件も頭痛の種だが、それ以上に面倒な父親との話し合いを今夜に控え、更に頭痛は酷くなりそうだ。

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