狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
「一丁前に。どぉ~の口がいってんだ、コルァ‼」

一瞬塞ぐ手が遅れ、鼓膜がビィィンと震えた。

「テメエはな、
俺が今から何社に頭下げにいくと思ってんだ。
減らず口叩く暇があったら
テメエが土下座しに行きやがれっ。
『桁数間違えたアホは、この私です』
ってなあ‼」

長くて細い親指と人指し指が
ギュッと私のお口を挟んだ。

「ムガガッ…いひゃぁ…いっ」
「マッタク、口だけは達者なんだからよ」

2本指は2、3度振りをつけ、アヒルさんのようになったお口を乱暴に離した。

「うう…」

ヒリヒリする唇を押さえていると、遥か頭上で大きな溜め息が聞こえた。

「いいか、罰として俺が戻ってくるまでに、ソレを全部纏めとけ」
「ふぁあい…」

「返事はハッキリ爽やかに『ハイッ』だ」
「ハハァッ!」

私は思わず足下にひれ伏した。

彼は素晴らしく整った眉を潜ませて、あからさまに嘆息を漏らすと、書類鞄とスーツの上着を手に取った。

今から私の尻拭いに出かけるのだ。

「……反省文も忘れずにな」

言い残すと、ドアの向こうへと姿を消した。

……行った、かな?

彼がもう戻ってこないことを
何度も確認した私は、
ススッと机下に潜り込んだ。

取れてしまったリップを塗り直し、ションボリと肩を落として席につく。
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