君色キャンバス

揺れる過去



――朝が来る――

 
 時計の針は8時15分を指し示した頃、油絵の独特の匂いで目が覚めた。


 いつ、寝てしまったんだろう。


 深夜遅くまで絵を描いていたせいか、昨日の記憶が曖昧になっている。


 でも俺の体を覆いつくすキャンバスは、確実に完成へと近づいていた。


 榊原さんがかけてくれてくれたと思えるタオルケットをのけて、再び絵にとりかかろうとしたとき、榊原さんがコーヒーを淹れたコップを差し出したので、ひとまず受け取る。


「おはよう」

「おはようございます」


 沈黙が走る。

 
 大体いつも榊原さんはこう。

 俺の絵を見るときは必ず何分間かの沈黙が走る。


 その時の表情が激しい感情を裏に隠しているかのように思えて、気が抜けない。


 朝独特の眠気がこの瞬間で一気に消えてしまう。


 



< 114 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop