例えば星をつかめるとして

*『星が綺麗ですね』


夏の陽射しは、それはそれは暑い。通学までに汗ばんだ肌をタオルで拭いながら、私は教室の扉を開けた。エアコンで冷やされた空気が頬を撫でて、思わずほう、と息を吐いた。

「あ、澄ちゃんおはよー。星野くんも」

「真理。おはよう」

「速水さん、おはよう」

教室に入ると、すぐに真理の姿が見える。こちらに手を振る真理の方へ歩いていき、近くの机に腰掛けた。

夏休み初日──模試の日から、一週間ほど経っていた。普通の学生なら休みを謳歌するんだろうけれど、悲しいかな制服を着て、講習を受けるべく学校にいる。

次の講習は二時間目の英語だ。通常授業と違ってびっちり詰まっているわけではないので、空き時間はこうして空き教室で勉強するのが日課になっていた。図書室と違って喋っても良いので、真理や叶多と教え合ったり出来るのだ。

「ねえねえ、澄ちゃん今日三時間目までだっけ?」

参考書とルーズリーフを鞄から取り出したところで、真理にそう訊ねられた。私は思い出しながら、首を横に振った。

「ううん、四時間目の地学とってるから、今日はそこまで」

「そうなんだ。あれ? 地学使うって言ってたっけ?」

真理は首を捻る。それもそうだ。私が受けると言っている大学の経済学部は、大体は受験科目が英数国の三科、選択で生物か化学があるくらいなので、地学は今までそこまで熱心にやってきていなかった科目なのである。
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