もう一度君に会えたなら
 そのとき、あの人が鼻をくんとさせた。

「潮の匂いがする」
「この近くに海があるの。きっとその匂いです」
「海?」

 彼は不思議そうにわたしを見た。

「海を見たことないの?」
「あるけど」

 わたしの住むこの家は海の近くにある。そのため、海は当たり前のように存在していた。きっと彼はそうではなかったのだろう。

「それなら、海を見に行きましょう」
「でも、周りが許さないでしょう」

「そんなことないです。だって、あなたはわたしのお婿様になる人でしょう。わたしがお父様たちを説得します。だから、海に行きましょう。義高様」

 わたしはそう言うと、笑みを浮かべた。
 彼は驚いたように目を見張ったが、はにかんだような笑みを浮かべていた。

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