もう一度君に会えたなら
「無理に聞き出そうとかじゃないから。ただ行けるなら、大学はいったほうがいいよねって思ったの。お金の問題なら、奨学金とかもあるしね。そう考えると、わたしなんか恵まれているんだろうな。中学から私立だし、大学も私立の医学部以外なら好きなところに進んでいいと言われているもの」
「わたしも同じようなものだよ」

 榮子はわたしの前の席の椅子を引き、そこに腰掛けた。困ったような笑みを浮かべた。
 きっと彼の家はそこまで余裕がないのだろう。
 お父さんがいるみたいだが、お父さんは何をしているのだろう。

 彼にはお母さんはいるのだろうか。
 いるとは断言できなかった。彼からお母さんの話題が出てきたことは一度もなかったから。

「わたしたちが気にしても仕方ないんだけどね。川本さんはどうしているの?」
「分からない」
「最近は会ってないの?」
「忙しいみたいだもの」

 彼から借りた本を読んでみて、それを返却はした。ただ、彼はなかなか時間の都合がつかないとかで、図書館が休みの日に返却ポストに入れておいたのだ。そのため、お母さんと彼があってからは彼とは会っていない。

 ただ、いつも通りの時間を過ごしているとはいいがたかった。お母さんは彼に興味がわいたようでいろいろ聞いてはくる。

 わたしは彼のことをそこまで知らないし、お母さんには学費のことも言い出せなかった。だから、わたしは会話が深くなりそうだと、笑顔でごまかすのを繰り返してた。お母さんはそれを照れ隠しと思っているようだけれど。
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