クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について

◇◆◇

で、打ち上げ終了後。
ほろ酔い気分で外に出たら、麻生くんに捕獲され、彼の車に乗せられた。
麻生くんはお酒飲んでないらしい。

四駆だから席が高くて見晴らしがいいなぁ。
車内はキレイで、余計なものは置かれていない。車の中って性格出るよね。

キョロキョロしていると。

「よかったらどうぞ」

フリスクを寄越してくれた。
お、気が利く。

「ありがと」

「灯里さん、実家暮らしでしたっけ」

「うん。妹に迎えに来てもらうはずだったんだけど、断ったから、送ってもらえると助かるかなー」

「明日はお仕事ですか?」

「そうだよ。遅番だけどね」

「俺も仕事です。音が頭に溢れてて、ちゃんと仕事できるかなぁ」

「あはは、わかる、それ。あたしも本番の次の日は地に足がつかない感じする」


あぁ、いいな、この雰囲気。

たぶんお互い好意を抱いてるんだろうけど、その探り合い。

うーむ、恋の始まりはこんな感じだった気がする。




「で、どうでした?」

麻生くんの言葉に、さっきの本番を思い出す。


演奏中には姿は見られなかったけれど、澄んだ音色は耳に残ってる。
あたたかい、と感じるのは、クラリネットという楽器の特性なのか、それとも、演奏者の個性なのか。

ノーミスなのはもちろん、めちゃくちゃ上手いヴァイオリンやチェロのソロ、他の管楽器ソロと比べても遜色ない、気迫に満ちた演奏。

本番独特の緊張感の中で、あれだけの演奏ができるって、ほんとにすごい。

さすが、元名門吹奏楽部一軍。
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