復讐の女神
第3章

悲劇の始まり

ゆりがナイフを振り降ろしたその時だった。

「俺を殺すのか?」

そう声がして、ゆりは手を止めた。

恐る恐る、片山課長の顔を見ると
彼は目を開け、ゆりを見ていた。

ゆりは、ハッとしてそのまま手を下ろした。

片山課長はゆっくりと上体を起こすと
ベッドの上に座る体勢になった。

「え?」

ゆりは驚いてすぐに何が起きたのか判断が
つかなかったが一度唾を飲み込むと
「お、起きてたの?」と聞き返した。

「ゆりが・・・ワインを入れるのに大分時間を掛けていたから怪しいと思った。
以前、ゆりの家で睡眠薬を見たことがあったから予防線を張ってたんだ」

「じゃぁ、ワインは・・・」

「一口も飲んでないよ。唾を飲んで、飲む振りをしただけだ。」

ゆりは、混乱し思考が追いついていかなかった。
ゆりが黙っていると片山課長は口を開いた。

「全て、知っていたよ。兄の事件の関係者だという事も
復讐のために俺に近づいたということも」

「し、知ってたって・・・」

「正確に言うと、派遣会社からゆりの紹介があって写真を見た時に似てると思った。
それで一先ず採用してから様子を見てたんだ。そしたら、案の定俺の家族のことを聞いてきた。
だから確信したんだ。あの時、父に向かって叫んでいた女の子だということを」

ゆりは、少し冷静さを取り戻すと眉間にしわを寄せながら
怪訝な顔で彼に尋ねた。

「じゃぁ、全て知ってたの?
全て、知ってて・・・私に近づいたの!?
好きだって言ったことも
愛してるって言ったことも
全部偽りだったの!?私を騙したの!?」

すると心外だとでも言うような冷たい表情で
片山課長も素っ気なく応えた。

「それは、お互い様だろ」

そのセリフにゆりは、その場に立っていられないくらいの衝撃を受け、
ふらふらと後ずさり、そしてナイフを落とした。

すると突然、部屋のチャイムが鳴った。
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