復讐の女神

追憶

ゆりは、帰りの電車の中で
バーでの片山課長のことを思い出していた。

「今日だけ俺と寝てみるか?」

落ち着いた低い声、試すような流し目に、色気を宿した口角の上がった唇。
少し強引なのにお遊びで終わったあの瞬間。
心を射抜かれたように甘い刺激が全身を覆った。

「今夜は、七瀬さんを抱きたい・・・」

冗談だと分かっていても、ゆりの心の中は穏やかのままでいられなかった。

重い溜息を一つつくとゆりは目を閉じ、昔を思い出した。


ゆりが小学生初めての夏休みの宿題をやっている時だった。

「夏休みの宿題で計算ドリルを進めなきゃならないのー」

そう愚痴るように言ってゆりは、計算ドリルのページを開いた。

「へぇ、大変だね」

涼がそう言うので「涼くんとこは宿題ないの?」と
ゆりは疑問に思って尋ねた。

「あるけど、特にすることもないから早めに終わらせちゃったよ」

「え!?特にすることないって遊びに行かないの?プールとか・・・」

「行かないよ。行ったことないし。僕は家から出るなって言われてるから」

「そうなんだ・・・。家では何してるの?」

「勉強かな」

「えー!偉い!私、勉強嫌い!」

ゆりが元気よくそう言うと涼は笑った。

「この前の算数のテストでも悪い点取って先生に怒られたばっかだから
計算ドリルもちゃんとやらなきゃいけないんだー」

「そうなんだね。それは大変だね」と
涼は楽しそうに笑った。

「涼くんはテストどうだったの?」

「僕はね・・・」

そう言おうとした瞬間、あることを思い出した涼は一瞬にして悲しい顔になった。
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