武士(もののふ)は黙して座する
ビュンと攻城刀を振り、血糊を払う。

僧侶を仕留めた後、時貞は静かに振り向き、城跡を見た。

「お騒がせして申し訳ありませぬ…姫」

…勿論、この場には時貞以外誰もいない。

しかし、彼には見えた。

かつて契りを交わした御影城城主の一人娘。

一介の武士に過ぎぬ時貞を慕ってくれた、誰よりも愛しき姫君、桃香。

御影城が攻め落とされたあの日、桃香は刀傷、矢傷だらけの時貞の手を握り、炎に包まれた天守閣で呟いた。

「時貞様、どうかずっと側にいて下さいませ…私が眠りにつくまで…眠りについた後も、ずっとお側にいて下さいませ…」










時貞は桃香の手を握り締めたまま、燃え落ちる天守閣で運命を共にした。

…愛する姫君を守りきれなかった。

その無念が今も尚、時貞をこの城跡に縛り付けるのだ。




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