君の瞳に映りたくて。



それから私はホテルの出入り口すぐの木のそばに座らされ、香坂もその横に座った。


「…で、なに?」


「あのさ、今日どうした?」


「…今日?」


「スーパーで。」


「…あぁ、別に。」


「榑林には話してあるんだろ?
なんで俺には言わねーんだよ。
友達だろ。」


「……昔、あのスーパーで買い物をしたことがあって。
そのときね、急に銃乱射事件が起きてさ。
私は無傷だったんだけど、私の目の前で銃に撃たれて死んだ人がいて。
それがすごくショックで、怖くて…」


「そっか、悪い。思い出させて。」


「ううん、いいよ。」


なんとなく、香坂には話しても平気っていうか、香坂には聞いてほしかったのかも。
香坂に話すだけで少し安心する。


「…ってかさ、話聞いてたよね?今。」


「………別に聞くつもりはなかったんだけど、たまたまな。」


「お恥ずかしいところを見られましたね。」


「………こんなことになったから言うけど、春翔はずっと宮下のこと見てたよ。」


「え?」


「入学式の日、あいつ俺に会うなりいきなり、『宮下舞桜ってやつと遅刻してきたー』とか言い出して」


「え、なんで名前知ってるの?」


「さぁ?調べたんじゃねーの?」


「…ふーん。」


「で、俺も誰それって感じだったんだけど、部活始まってから春翔に宮下のことを聞いて、それからあいつ、毎日宮下のこと見てたんだよ。
毎日朝練で宮下の走ってるとこ見て、俺も負けてられねーとか言い出して。
2年になって同じクラスになって、宮下がよく宿題忘れてるとこ見て笑って、放課後も宮下の走りを見て。
あいつのお気に入りは宮下だったんだよ。

だから、見てなかったわけじゃねーから。」


「……そうですか。
でも別に今さら聞いてもって感じだし、聞いたところでなにか変わるわけでもないけどさ。」


「まぁそれならしかたねーけど。」


「じゃあ私戻るから。」


また八つ当たり。
宿題忘れてるとこ見て笑って、ってちょっとひどくない?
バカにしてたのかって。



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