この夏の贈りもの
翔が少女の手を握り、そして振り返った。


その目には涙が浮かんでいる。


「なんで泣いてんだよ、せっかく好きな人に会えたのに」


裕がそう言い、笑顔を浮かべた。


その笑顔は少しだけひきつって、今にも涙が落ちてしまいそうだ。


あたしも裕の隣で笑顔になった。


「悪い。俺一足先に行ってくるな」


翔は涙をぬぐい、そしてニカッと笑った。


それはいつもの翔の笑顔だった。


あたしたちを安心させるように、白い歯をのぞかせる翔。


「ありがとうチホ。俺は生きたよ」


そう言う翔の体は金色の光に包まれ始めていた。


「チョコレートも食べたし、山登りもした。虹も見たし、相撲もした。それに花火だって……」


翔の声はどんどん遠くなり、聞こえなくなっていく。


それでも翔の声を聞こうとして、あたしは耳をすませていた。


翔が最後に言った言葉は「俺は今を生き抜いた」という言葉だった……。
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