この夏の贈りもの
すべてがここへ来る前の日常に戻ってしまう。


それが怖かった。


そう思うと、唯人の笑顔が痛かった。


「元気じゃない……」


あたしは小さな声でそう返事をした。


「うそつけ。マヤは1度も風邪なんてひいたことはないだろ?」


また、唯人はあたしを『マヤ』と呼ぶ。


反論しようとしたけれど、声にならなかった。


唯人の目には、もうずっと前からあたしは写っていないのだから。


ダラダラと時間を潰していると、外の景色は見る見るうちに夕方へと変わって行った。


オレンジ色のグラウンドに、真っ赤な太陽。


あたしは太陽の眩しさに目を細めた。


あたしは重たい体を起こし立ち上がった。


「除霊するのか?」


和が聞いて来て、あたしは「トイレ」と、短く答えた。


教室の戸を開けた瞬間、ホコリくささが鼻を刺激した。


廊下の窓には沢山のホコリが積もっていて、窓ガラスは所々割れている。


廊下を歩けばギシギシとうるさいくらい音が鳴り響き、学校の老化が進んでいる事がわかった。
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