雨を待ちわびて
-Ⅸ-先が定まってる訳じゃない

はぁ、はぁ、…きっと居る。

カチャ。やっぱり開いたまま。
危ないって人には言うのに、無用心ね。
靴…、ある…居る。

水の音がする。

カ、チャ。

「片霧さ、ん?」

え…居ない…え?

「誰だ…」

キャ。悲鳴も殆ど聞こえないくらい一瞬の事だった。
いきなり羽交い締めにされた。首に腕を回された。…締め上げられる一歩手前で止まった。…苦しいい。

「直…。はぁぁ。ビックリさせんな。もう少しで堕とすとこだったぞ…」

腕をペチペチとタップした。

「お、悪い」

はぁ、…解放された。
シャワーを止め、腰にバスタオルを巻いて頭をガシガシ拭き始めた。

「どうした」

「雨が降ったから…」

居酒屋には行かないはずだと思った。

「あ゙?雨が降ったら、いきなり男のシャワー中を襲うのか。…不法侵入だ」

違う。雨が降ったから…、部屋に居ると思ったから来たのに。

「嘘つき」

「ぁあ゙?何ぃ?来て早々、何言ってる。不法侵入は事実だろうが」

「身体も…心も、深く傷ついていたくせに」

「は?」

抱き着いた。

「馬鹿、冷たい!ていうか、お前…濡れてるじゃないか」

腰に巻いたバスタオルに手を掛け、その部分だけを強く引き下げた。

「ばっ、何、いきなり襲ってやがる。いつから痴女になったんだ」

「…心も深く傷ついたくせに」

顕わになった傷痕に触れた。

「直…、お前…」

「心は無くしたって…」

泣き顔で片霧さんを睨んだ。
< 140 / 145 >

この作品をシェア

pagetop