雨を待ちわびて

「…先生ごめんなさい!」

私はまた飛び出した。今度こそ、行くところなんてない。
バスにも乗らない。とにかく、川沿いの歩道迄走った。
…電話を架けて、居させてって言う知り合いも居ない。2年の間に人との繋がりは無くなってしまった。
実家にも帰れない。

私はとにかく公共のところでなければ行けるところが無いんだ。
とにかく、今夜はウィークリーマンションにでも泊まろう。
そして、保証人の居ない私でも借りられるアパートを探そう。そして、仕事も、しよう。

もう、とうにそんな時期に来ていたんだ。

いつまでも…恋人でもない人にズルズルと甘えていてはいけなかったんだ。潮時だ。…早く気が付くべきだった。そう考えたら、一緒の部屋に居る事は…無い話だ。

このベンチ…、つい最近先生と座ってお喋りをしたのに。今はこんな気持ちで座っているなんて…。
明日の事、…数分後の事なんて、…何が起こるか解らない。
…突然、自分の身に何が起こるかなんて、解らない。
…あの時だって。…予期せず悪いコトは突然訪れたもの…。

…怖い。

……ん?雨が…、止んだ…。…え?

「はぁ、はぁ…。コラ、守田直…」

え?

「ここだと思いましたよ。さあ、行きましょう」

「あ、あの…どこへ?」

「病院か、…俺の部屋か、どっちかです。どっちがいいですか?」

…。

「…今日は患者じゃ無いって言ってましたから、必然的に俺の部屋ですね。さあ…行きますよ?」

…返事もせず動こうともしなかった。

「もういい加減にしないと!こんなに濡れて…風邪をひきます。…有無は言わせませんよ」

あっ。傘の中に引き込まれた。

「はぁ、大丈夫ですか?…孤独を感じて、何か良くない事、思い出したんじゃ無いですか?
今、とても怖いのではないですか?
…抱きしめますよ?
大丈夫です、…大丈夫。もう居ませんから」

あ、…。どうして、…読まれてしまうの…。

「刑事さんは来ません。すみません、あれは俺の小芝居です。
刑事さんが来ると知った貴女は逃げた。逃げないで居るようなら、本当の連絡をしようと思いました。
貴女も刑事さんも子供ではありません。
貴女のした事、言った言葉の意味は刑事さんも解っています。その上であちらも連絡をして来ないのは、束縛していない証拠。守田さんが自分で考えて、自分で歩いて、自分で強くならなければ、何も始まらないという事です。
だから刑事さんは守って来た。
俺、仕事はもう終わってますから、このまま帰れます。
運が良かったですね?あそこで俺に会えてて。さあ…、行きましょう」
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