笹に願いを
たとえ天野くんが涙が出るほど感激したことを言ってくれても、友だち以上の世界に踏み込んじゃいけない。
彼はそういう意味で言ったんじゃないんだから。
私は恋人未満の境界線の前に、ただ佇むしかないんだ。
今も、これからも・・・ずっと。
と自分に言い聞かせている間に、エレベーターの扉が開いた。

そこから出てきたのは、天野くん一人だけだった。
他に誰も乗っていなかったエレベーターの扉が閉まってから、彼がうちまで歩いてくるまで、私たちはお互いから視線を離さなかった。

・・・嬉しい。
今夜は一番会いたくないと思っていたのに。
でも天野くんに会えてやっぱり嬉しいと思うのは、今夜、私の一番会いたい人が、目の前にいるこの人だからって・・・自分に認めよう。

気がつけば、私の顔には笑みが浮かんでいた。

「織江」
「天野くん。えっと・・いらっしゃい。入って」
「おう」

私は静かに玄関のドアを閉めた。

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