今日も来ない、きみを待ってる。
「……」

彼の傷は、私が思っていたよりも相当深いものだった。

それからは本気で人を好きになれず、遊びでしか女性と付き合うことができなくなったらしい。
彼は過去を語る間、1度も私の目を見なかった。

女性を信じられない。
それが私との間に線引きをしていた理由だった。

こんな私なんかが、彼の過去を全部受け止められるのだろうか。
彼が信じてくれるような人間になれるのだろうか。
本気で悩みに悩んだ。

でも私は彼が好きだった。
きっかけは何気ない出会いで、好きになった理由だって曖昧だけれど、私が彼を本気で好きだというのは事実だった。

私の少し前に立ち、景色を眺める彼の左手をそっと握る。

「どうしたの」

彼は不思議そうに私に尋ねる。
いま思えば、私にしては大胆な行動だったと思う。

「なんでもない…」

私が、彼の煙草をやめさせる。
そのとき私は、心の中で誓った。

私が左手を握った意味に、彼は気づいていただろうか。

溢れそうになる涙をぐっとこらえて、私は目の前に広がる景色と彼の横顔を瞳に焼き付けていた。
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