龍の神に愛されて~龍神様が溺愛するのは、清き乙女~

贈り物

*†


縁側で鳴く雀の愛らしい声が、耳に柔らかく届いてきた。

温かく、柔らかい日差しが眠る葵に障子越しに注いでいて、朝を告げている。

それらを優しく体に与えられ、葵はゆっくりと目を覚ました。

始めに目にしたのは天井。

そこから少しずつ視線を下に流しながら、部屋を見渡した。


「私の部屋……」


夜明け前に部屋に戻してやる、と皐月が言っていた。

本当に、運んでくれたのだ。


「……本当に、約束を守ってくれるなんて……」


神に巫女である葵を運ばせるなんて、あり得ない。

しかも、巫女との約束を守ってくれるのも稀な事だ。


「神様らしくない、神様」


葵は、寝起きの顔を笑みで崩した。

自然と溢れる喜びの感情。

今まで感じた事のないそれに、葵は戸惑った。

どうして、必ず考えるのは皐月の事なのだろう。

常に無心だったはずの生活の中に、皐月という一人の存在が自然とある。

傍にいて当たり前。

いつの間にか、そう心が決めつけている。


「皐月様は神。そんな風に思っては駄目よ」


考えを全て払うように、首を振る。

そんな時、茵の横に畳まれた皐月の羽織の上に置かれていた白い紙が視線に入った。


「何かしら……」

葵はその小さく折られた紙を手に取る。

その瞬間、紙から微かに白梅の香が漂ってきた。


「もしかして、皐月様…?」


白梅は皐月の香りだ。

葵はそっと小さく折られた紙を開く。

すると、紙には流麗な文字が綴られていた。

内容は二行と少ないが、皐月からの文だ。

『名残惜しが、夜明けだ。
また、夜に逢おう』


今夜の誘いの文。

葵は、その文を愛しげに胸に抱いた。

「はい。勿論、逢いに行きます」


文を貰うのも、これが始めてだ。

それが皐月からなら、尚嬉しい。
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