私は彼のことが苦手です。
2.優越感、覚えなかった?
 
***


その日は朝から雨が降っていた。

私は営業部長に呼ばれ、普段とは違う仕事の依頼をされていた。


「私がMR訪問のサポートですか?」

「あぁ。普段よりも規模の大きい勉強会をするらしくてね。フォローを頼むかもしれないから薬剤師資格があると助かるということだし、ぜひ野瀬さんに任せたいという希望があってね」


「野瀬さんに任せたいという希望」という言葉に明らかに不安を覚え、部長に向けて質問を投げかける。


「……その希望というのは、どなたが」

「あぁ。高宮くんだよ」

「……そうですか」


やっぱり湊真か、と肩を落としそうになるのを何とか堪える。

普段であれば依頼されれば、どうしても仕事が詰まっていない限りは引き受けるようにしている。

でも、今回は気が乗らない。外に出てサポートする仕事なんてそう簡単にできるとは思えないし、依頼してきたのはあの湊真だし、できることなら他の人に頼んで欲しい。

駄目元で部長に尋ねる。


「私以外に依頼することはできないんでしょうか? 表に出る仕事ですし、営業の人の方が適任かと」

「最初は高宮くんもそのつもりでいたらしいんだが、確認してみると営業は全員予定が合わなくてね。それであれば、事務の中で薬剤師資格を持っているのは今は野瀬さんしかいないから、それがいいという話になったんだ。もし仕事が詰まっているということなら、その仕事を他の人に回すことも視野に入れようという話を高宮くんともしていたんだが、どうだろう?」


私が逃げないようにとしっかり根回ししている辺りも、ものすごく憎らしい。こんなんじゃ、逃げようがない。

私は湧き上がってくる怒りの気持ちを抑え、笑顔を浮かべる。

引き受けてやろうじゃないの。


「わかりました。今持っている仕事に関しては、私の方で終わらせますので問題ありません。この件に関しても、私から高宮さんに直接返事しておきますね」

「あぁ。助かるよ」


安堵した表情を浮かべた部長に挨拶をして、私は自分のデスクに戻った。
 
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