後輩


「被害者面とか、うざい」
「……ゆき……っ」
「俺のこと最初に突き放したのは、先輩のくせに」
「………」
「今更俺の前に現れて、偽善者ぶって傷ついたような顔して、本当は俺に許してもらって罪悪感から開放されたいだけなんだろ?そうやって先輩は自分を守ってるだけだ」
「………」
「いつまでもそうやって自分の手のひらで都合よく転がる後輩だと思うな。俺にだって……心くらいあるんだ」


 千咲先輩を傷つける言葉が次々と溢れて止まらない。
 そして、俺自身もそんな自分に傷ついていく。

 昔はこんな関係じゃなかったのに。もっと純粋で、真っ直ぐで、千咲先輩を想うだけで胸が甘く痺れるような、そんな恋だったはずなのに。
 今は忘れられない「好き」という気持ちがこんなにも俺を、俺たちを苦しめる。
 どうしたらもっと思いのままに動けるんだろう。あの頃の俺に聞きたい。いつから俺はこんなにもねじれてしまったのか……。


「ごめ、なさ……っ。……由樹人くん、ごめん」


 ポタポタと溢れては零れていく涙を拭いながら、くぐもった声で先輩は何度も謝った。心臓がチクチクと痛む。泣きじゃくる千咲先輩の頭に伸ばした手は、結局触れることもできないままグッと握り締めることしかできなかった。
 小さく震える肩を、涙に濡れる綺麗な顔を、昔よりも少しだけ明るくなったその髪を、どうしようもなく愛しいと思ってしまうから。
 こんな想いをするくらいなら、千咲先輩を好きにならなければよかったと、心からそう思った。

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