後輩



「……千咲、昔君に告白されたって言ってた」
「…………」
「その時は君のことが好きじゃないから断ったって言ってたけど、その日からずっと君のことばっかり考えて、悩んでた」
「…………」
「千咲は優しいの、本当は。だから昔、君に見せた全てが千咲の全てだとは、思わないでほしい……」
「…………」


『由樹人くんも、他の人と一緒』
『誰だって良かったんだよね、優しくしてくれる人なら』
『それが私じゃなくても、好きになってたんだよね』



 何で────────。



「それでも……」
「え?」
「それでも千咲先輩は俺のこと、信じてくれなかったじゃないですか」
「…………」
「……他人にどれだけ優しくても、俺に見せた千咲先輩はそれが全てじゃないですか」


 今更、優しい千咲先輩(せんぱい)になんて会いたくなかった。だってそれじゃあ────。
 俺に優しい先輩は、俺を知らない他人と同等に見てるってことじゃないか。

 そんなの、千咲先輩にとって俺は、どうでも良かったってことじゃないか────。


「それは違う!だって千咲は君のこと……!」


 友香さんが何かを言いかけた時、ポツリと頭上から水滴が落ちてきた。思わず空を見上げるとそこには怪しい雲行きが広がっていた。


「雨?」


 友香さんが呟いた瞬間、雨足は徐々に強くなり俺たちは慌てて近くの軒下に避難した。幸い強くなる前に入ることができ、服はそれほど濡れずにすんだ。


「こんな天気崩れるなんて聞いてないんだけど……」
「困りましたね」
「とりあえず二人に連絡とるよ」
「お願いします」


 友香さんのスマホから数回コールが鳴るのを聞いていたが、それは誰にも繋がることはなく。それを何度か繰り返してみたが、電話は繋がらなかった。


「ったく、二人共なにしてんのよ……」
「俺、探して来ましょうか?」
「ダメだって。雨も結構強いし、二人がどこにいるのかもわかんないのに……」
「由樹人ー!友香さーん!」


 声のする方に振り向くと、そこに両手に傘を抱えた安の姿があった。

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