愛しい人
6.目覚め Cercis chinensis
6.目覚めCercis chinensis

「深山記念病院まで、急いでください」

 純正はタクシーに乗り込み、運転手に行き先を告げる。

先ほどエレベーターの中でかかってきた電話は、茉莉花の意識が戻ったという連絡だった。

花名には申し訳ないと思いながらも、医師として、患者のもとに駆け付けることを選んでしまった。

この選択は間違いではないはずなのに、純正は迷いを拭い去れないでいた。

ひとり残してきた花名を思うと胸が苦しくなるのだ。

今、もし人として優先すべきは誰かと問われれば花名だと即答するだろう。

今までの自分なら仕事と答えたはずなのに。

「俺も人の子か……」

 医師という仕事より、優先したい存在が出来た。

こんな感情を持つことなんてないと思っていた。これは嬉しい誤算だ。

純正は自称気味に笑った。

それからスマホを取り出して着信履歴から病院に電話をかける。
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