イジワル副社長に拾われました。
「なあに?」

「ワタシ、今幸せです」

「……そう? ならよかったけど」

数時間前にあんなに不幸だと思ってたけど、まだまだ世の中捨てたもんじゃないわ。

白井さんにはあんなに意地悪言われたけれど、私の人生もまだまだなんとかなるんじゃない?

「はい、感動にひたるのはそれくらいにして。仕事始めるわよ」

大西さんの声で現実に返った私。

「はい」と大きく返事をすると、大西さんがフワリ、と微笑んだ。

「とりあえず桐原さんは、そこに座ってて。私が何かお願いしたら、助けてくれる?」

「わかりました」

私が椅子に座る同じくらいのタイミングで、咲良さんが鏡の前の椅子に腰をかけた。

「お願いします。未来ちゃん」

「了解しました」

スッ、と大西さんの手が咲良さんの頬にのびる。

その手が何も施されていなくてもキレイな肌を、より一層輝かせていく。

丁寧に下地でベースを作り、お次はファンデーション。

軽くのばしているだけなのに、どんどんと美しくなっていく。

「すごい……!」

思わず感嘆の声を上げた私に、咲良さんが声をかけてくれた。

「すごいよね。私も初めて未来ちゃんにメイクしてもらったとき、とっても感動したの。魔法使いみたい! って」

「魔法使い?」

「うん。最初に私の頬をちょっと触っただけで、今日のコンディションに合わせてメークしてくれるんだよ。しかもそれが完璧なの」

「それで仕事してるんだから、当たり前よ」

咲良さんの褒め言葉に大西さんは少しだけ微笑んだけど、すぐに真剣な表情に戻ってメークを続ける。

「私もこの仕事続けて長いから、色々な人にお世話になっているけど、未来ちゃんはその人たちの中でも一番信用できるメイクさん。ホント、香月辞めて私の専属になってもらいたいくらいなのよ」

「トップモデルさんにそんな風に言われるなんて、大西さんってすごい人なんですねぇ」

「もう、咲良ちゃん。桐原さんに変なこと吹き込まないでよ」

「私は本心を言ってるまでよ」

「はいはい、わかったから。はい、最後にグロス塗るからちょっと黙って!」

「はぁい」
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