「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

5.色づいた世界



入院生活から二週間が過ぎた。



中学校の先生が慌てたように、
何度もお見舞いに来ているらしいことは裕先生からきいたものの
先生の判断で、ドクターストップと言う形をとって会わないで済むようにしてくれていた。


同じようにお父さんや、お母さん、妹ともあれから会っていない。




病室でボーっとしながら、Ansyalの音楽を聴いて
時折、裕先生とお話をする。


お話がセッションと言われる診察だと知ったのは後からだったけど、
ただこの病院にいる時間は、ちゃんと皆、私のことが見えるのか一人の人として存在することが出来た。



だからこの時間が、とても優しくて暖かい。
心からそう思えた。


それが束の間の憩いの時間だとしても。






「おはよう」




朝、掠れたような声で紡がれる言葉。
何気ない日常の一言。


そんな当たり前の言葉が本当に暖かい。


「おはよう」


寝起きの出しにくい声で私も小さく呟く。



朝の日課がこんなにも暖かいなんて、
ずっと忘れてた。



いつも流れ続けるAnsyalの音色。




「あっ、里桜奈ちゃん朝から、またAnsyalに浸ってるね」

「……光だから……」

「光かぁー。まぁ、悪くない表現だけどな」



……君がいるだけで……



何度も繰り返される、そのフレーズが優しく私の中に流れ込んでくるたびに、
真っ白になれる気がする。

生まれ変われるような錯覚に捕らわれるから。


だから……今は好き……。



独りじゃないから。


いつも近くにいるからって優しく音楽が包み込んでくれる。
そう思わせてくれるから。


世界は満更でもないんだよって、
生きることは苦しいだけじゃないんだよって教えてくれるから。



「楓我さん。この曲……欲しいです」


流れ込んでくる光の勢いに任せて勇気を出して告げる言葉。
私がファンになってもいいのかなー。


紡ぎそうになる、その言葉を必死に飲み込んで。



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