「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

「ごめん……」

「謝ることないって。
 なんかさ、祐未はベースにはしったっぽい。

 ギターもいいんだけど、
 ベースの安定したサウンドが心地いんだってさ」



そうやって言う紗雪に促されるように祐未の方を見ると、
祐未は人差し指と中指だけを器用に使いながら弦をつま弾いていた。


長いって思ってた四時間のスタジオレンタル時間も
あっという間に終わってしまって、
スタジオから出た後は、
勢いで楽器屋さんへと流れ込んだ。


中古品も含めて、
いろんな楽器が並んでる店内。


真っ先にギターコーナーに向かって、探すのは
TAKAのギター。


60万、70万、80万と
私の想像以上の値段がつけられていたギターたち。




こんなの手が出せないよ……。




溜息だけが、零れ落ちる。





「あっ、ここに居た。
 
 あぁ、やっぱりZEMAITIS狙い?
 TAKA使ってるもんね」



そう言いながら、紗雪は朝日奈さんを手招きして呼び寄せる。




「里桜奈がここから動かないわ」

「だろうね」



そう言うと、朝日奈さんは店のスタッフに
何か声をかけると、私の目の前のお高いギターは
ひょいと降ろされる。


そしてスタッフさんによって、
アンプへと繋げられた。



「はいっ。触ってみな」


触ってみなって……こんな人が多いところで、
ヨタヨタのドレミがやっとなのに。


そう思いながら、促されるままに
ギターを受け取った。


朝日奈さんのギターを手にした時とも、
ちょっと違う感触。


恐る恐る開放弦で弾いてみる。



「もう一つは、こっち。
 さっき、目をつけてたのもおろしてみた」


そう言って手渡されたのは、
TAKAのギターよりも軽くて、ネックも細かった。


「コードによったら、
 指一本で一弦から六弦まで抑えるものもある。

 ZEMAITISで抑えられるか?」


そう言われて、何とか抑えようと頑張ってみるものの
上手くいかなくて、
後から持ってきてくれた、
朝日奈さんの選んでくれたギターは抑えやすかった。



「こっちの方が抑えやすかったです」


そう言いいながらも、私の意識はTAKAの持ってるギターに
意識が強く向かう。



高くて買えるはずもないのに、
憧れだけが先走っていく。


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