「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


奥の待合室へと歩みを進めると、
ちょうど前の人の診察が終わった後で裕先生の姿が見えた。



「こんにちは。
 先に奥の部屋入ってて、少し急ぎの電話してくるから。
 中にいつもの記入用紙おいてるから先に書き始めておいてね」


裕先生はそう言うと、窓口の方で電話対応を始める。
許可も貰ったので先に診察室に入るとパソコンの前に用意されてある用紙を手元に引き寄せる。







・前回の診察日から、今回の診察日までの間に大きくストレスを感じたことはありますか?


・大きなストレスを感じた後、どのようにそのストレスと向き合いましたか?


・体の不調を感じますか?


・最近楽しいと思えたことを5つ書いてください。


・処方された薬は全て指示通りに服薬出来ましたか?







上記の質問にいつもの様に答えて書き込むと、
裕先生が帰ってくるまでエアーギターでコードを抑える。


相変わらずDの指は出てこない。



暫くするとノック音がしてドアが開かれる。



「こんにちは。
 里桜奈ちゃん、今日もやってるね」


そんなことを言いながら、
対面する椅子に腰掛ける裕先生。


「この間、楓我さんに簡単だからって、
 ハッピーバースデーのコード教えて貰ったんだけど、
 Dが出てこなくなっちゃいました」

「Dが出てこない?
 ギターのDは……指三本じゃなかったかな?」

「あっ、確かこの辺だったかなー」


っとイメージを膨らまして、指だけを空中で動かす。


裕先生は、私が書いた用紙を手元に引き寄せて
コンピューターにスキャンした後、
用紙の隅にギターの弦とフレットをかいて抑える指を教えてくれた。


「どうだったかな?
 Dはあってた?」


答え。脳内シミュレーション・ハズレ。


「間違えてた」


っと溜息をつきながらも、落ち込むわけでもなく、思わず笑みが零れる。
  


「今度はこの指で頑張らないとね。
 2月頃に比べて里桜奈ちゃん笑顔が沢山零れるようになったね。 

 夏休み実家には?」

「帰ってもストレス溜まるから、帰る予定にはしてません」

「そう。

 里桜奈ちゃんにとって、ご家族がストレスの原因になってることもやむおえないけど、
 ゆっくりと新しい形で歩み寄るためのリハビリも必要だよ。

 今はもう少し里桜奈ちゃんの芯を育てるのを優先させてゆっくりと時間かけていこうね。

 じゃ、次はまた1週間後のこの時間に」



裕先生に見送られるように、診察室を出ると長い待ち時間の会計を済ませると楓我さんの病室へと向かう。
エレベーター階をあがると、いつものようにナースステーションの前を通って病室へと向かう。
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